<新連載 暗黒教団の陰謀2003>
とある空港の便を利用し、その老人はやって来た。
名をラバンと云うその老人は、真っ黒な丸形のサングラスをかけており、白い髪や白衣、堅い木で出来ているステッキなどから、怪しげな鍼師と云ったイメージを醸し出していた。
ラバンはこの国、日本にやらなければならない事を果たす為やって来た。
終わりの無い悪夢を終わらせる為。
永遠に訪れ続ける夜を殺す為。
人に仇為す異形の者達を、想像の産物のままで終わらせてしまう為に。
「待ってましたよ、ラバン博士」
ラバンと同じ、白衣姿の青年が声を掛ける。ラバンは声の方に目を遣り、それが旧知の知り合いである事を確認した。
「わざわざお出迎え御苦労、英才君。英一君は元気かね?」
「ええ、今も元気にラボで開発してますよ」
英才は苦笑しながら云い、ラバンを先導する様に歩き出した。
「こっちに車を停めてあるんです」
英才は歩を緩めず、むしろ早歩きをする様に車に向かったが、ラバンは英才に全く遅れる事無くついていく。外見は老人でも、身体能力はなかなかに高い様だ。
「これが君の車かね」
ラバンは黒塗りのベンツを見て、ほぅと漏らした。
「まあ、最近のベンツは昔のそれに比べて安くなりましたからね」
云いながら、英才は助手席のドアを開ける。そこに滑り込む様にラバンが入った。
「それじゃ、行きますよ」
運転席に座った英才は、キーを差し込んで回転させた。振動と共に、エンジンに火が入る。ギアをチェンジしてアクセルを踏むと、黒く光る車は走り出した。
「しかし博士、本当に日本で……?」
「ああ、そうだ。この文明のガラパゴスとも呼べる島国、日本で……奴等は遙か昔から活動し始めていたんだ」
ラバンはステッキを両手で掴み、ぐ、と力を込める。
「しかし、今までそんな話は全然聞かなかったんですけどね。猟奇的な事件も、起きていませんし」
英才は重めのハンドルをぐるぐると切りながら、不思議そうにラバンに云った。
「日本は魔術的価値の高い国だ。だから今まで、ずっと狙われていたのだよ。我々の誰一人としてそれが動いてると気付かない様な、非常にゆっくりとした…緩慢な速度で」
ラバンはそう答えながら、サングラスのフレームを押さえてズレを直した。
「成る程……まあ、とにかく。詳しい事はラボの方で話しましょう」
「そうだな」
英才がそう云った五秒後、車は目的地へと着いた。