「良くもまあ、一瞬でこれ全部解ったな」
「違う。私には、それはそう見えると言うだけ」
何となく心当たりがあったので、どういうことだがようやく解った。
「考えてるんじゃなくて、私にはそう見えるの。情報と情報を繋ぐ線が見えるの。言ったでしょう、頭がおかしい奴だと思うだろうって。仕方ないよね、私は頭がおかしいんだから」
「下らない」
目を潤ませ、感情と共に言葉を吐き出す柳葉を、俺は一言で切って捨てた。
「……え?」
「だって下らないだろ」
多分、柳葉にとってそれは生きるか死ぬかの大問題。
人と違うと言うだけで、人の中に生きられない者の嘆き。
自分を理解してくれる者はこの世に存在しないのだと言う不幸。
正常と異常、普通か普通じゃないかの致命的な差だったのだろう。
「芥川も太宰もゴッホも自殺した。彼等はみんな、天才だったからだ。天才は普通じゃないが故に理解されず、常に孤独だ。自殺しなかった天才も、その最期は暗く惨めでとても幸せであるとは言えないものが多い。何故だか解るか?」
「どうして?」
即答で質問が返ってくる辺り、ちゃんと考えてるのかとかそういう気もする。
が、先程のあれを見た後だ。
きっとこの一瞬で考えて考えて考えて解らなかったから聞いているのだろう。
確かにこれじゃあ、コミュニケーションが成り立ちにくいだろうな。
「それは、理解者に恵まれなかったからだ。また、天才が他人を凡才だと正しく理解しなかったからでもあり、凡才にも解るようにそれらを語ろうとしなかったからでもある」
「じゃあ、どうしようもないじゃない。他の誰も、こんな風には」
「そうか? 俺は理解出来たが」
その言葉に、柳葉が息を飲むのが解った。
「だから下らないと言ってるんだ。説明してくれればちゃんと解ったぞ。流石に同じ風には見えないけどな。それでも別に理解出来るし、珍しいとは思うけれど頭がおかしいとは思えない。良すぎるから普通はやりづらいだろうね、とは思うが」
いつの間にか、柳葉は泣いていた。
俺はそれが何だかとても綺麗に見えたので、指ですくって舐めてみた。甘い。
「別にお前は孤独じゃないよ。俺には理解出来る」
「あ、あ……あ」
何かを喋ろうとしているようだが、それは嗚咽になり声にならない。
「気にするな」
だから俺は何と言おうとしてるか理解し、応え、そして撫でてやった。
がくっ。