柳葉 楓は美人だった。
長い黒髪に、すらっと伸びた手足。女子にしては高い身長。
十六歳という年齢の割には、胸も十分大きい方だ。それにまだまだ成長も見込める。
また、柳葉は美人と言うだけではなく勉強も出来た。
中間テストや期末テストでは、いつも彼女が一位だ。
美人で頭も良く、知的。学校で彼女のことを知らない生徒はいない。
けれど、柳葉 楓には悪い噂があった。
曰く、言ってることの意味が解らない。
曰く、自分以外の全てを見下している。
曰く、援助交際をしている。
曰く、ヤクザの娘である。
曰く、暴力団の幹部の娼婦である。
根も葉もない噂だとしても、大抵はそれが真実か確かめる術はない。
そして学校という一種の閉鎖環境では、疑わしきは真っ黒の原則が働く。
しかし、その非の打ち所のない成績の前では、教師でさえも注意を促すことが出来なかった。
そんなまま一年の終わり頃まで時は流れ、柳葉はすっかり周囲から浮いていた。
とは言え、彼女は美人だ。
どんなに浮こうとも、どんなに女子から孤立しようとも、男子は柳葉に声を掛けた。
そう、この噂が真実味を持って浸透するまでは。
曰く、彼女に声を掛けた男は不幸になる。
彼女に声を掛けた男子が陰湿なイジメを受けたり、通り魔に襲われたり、不良に絡まれたり、事故に遭ったりするにつれ、とうとう男子も彼女に声を掛けなくなった。
そして平成二十年の二月十一日現在。三学期の半ば、微妙な時期。
柳葉 楓は、自殺しようとしていた。
続かない。