さて……正直人狼は、あの人だろうねぇ……。

見つめる赤い光がゆらりと揺れた気がした時に、後ろから私の名を呼ぶ声がした。

とは言え、それを言うのも無粋と言うもの。

生きてるな。続きを話そうか。
お菊の井戸というのは、播州播磨の国、姫路城に実際にあるのさ。今でもね。

車の尾灯に照らされ、道が見えた。
白いブレーキ跡がはっきり照らされている。


震える足を勇気づけ、私はブレーキ跡を辿った。

ほら、垢舐めは村人だった。
私が霊能者でいるような村が、勝てるはずがない。
暗い気持ちで私は考えた。

「あぶないっ！」
若い男の声がして、私の体は強い力で突き飛ばされた。

怖かった。

少し辿っていくと、尾灯の明かりが届かなくなってきた。ブレーキ跡が見えにくい。

判断を間違えること以外に、私に機能があるはずもない。
この村は滅ぶだろう。百物語の終わりを待つまでもなく。
私はため息をついて、その朝を待った。

表向きは家宝の皿を一枚紛失した咎で手討ちにされ、井戸に投げ込まれたという事になっている。

私の横顔を生臭い息が通り過ぎ、わたしは左肩に軽い痛みを感じた。

尾灯の明かりが完全に届かなくなるその前に、ブレーキ跡が消えた。
その直前には、ひときわ強く白く跡がある。
確かに、私はここでブレーキを踏んでいた。

本来そこにあるはずの、彼女の……肉塊は、どこにもなかった。

そこから、一枚、二枚..九枚、一枚足りない
という有名なセリフと井戸に手招きするお菊によって、井戸に引きずり込まれたとか言う事になっている。

こんな村がいくつ滅んだところで、大した問題ではない。
そう思えば気は楽なはずだが、いったいこの行為に何の意味があるというのか、無駄にトラフィックとサーバー容量を消費しているだけではないか。
この村を始めてしまったのが、そもそもの間違いだったのだ。そう言い訳しながら、私は彼らの語る物語を聞いている。

肉も血も、何もなかった。
"彼女"の存在を証明するものは、何も残されていなかった。

ただ、白いブレーキ跡だけがくっきりと残っていた。

実際、横恋慕が高じて手討ちにしたと言う事になっているが、これが事実なら、手討ちにした本人にはお菊がしっかりと見えていた、いや、見ていたと言うべきだろう。

私は、確かに聞いた。
彼女が潰れるその音を。

私は、確かに感じた。
彼女が引き裂かれるその感触を。

「大丈夫か？あぶなかったな」
手を差し伸ばす男の顔を不思議そうに眺めながら、私はほんの数分前と違う雰囲気を感じていた。

何が起きていたのか、理解できなかった。

ただ、茫然自失として…。その場に立ち尽くしていたが、やがて静かに車に戻った。

大きく深呼吸をひとつし、車のドアを明け、目を剥いた。

助手席に、白い…影があった。

彼女だった。